占有訴権(「せんゆうそけん」と読みます)。これも未修者にとってはなんだかよくわからない権利の一つです。
占有訴権を理解するためには、まず占有権について理解する必要があります。今回は、占有権とは何かを説明するとともに、占有訴権についてわかりやすくまとめました。
占有訴権とは
占有権を有する者は,その占有が侵害を受け,またはそのおそれがある場合に,侵害者または侵害のおそれのある状態をもたらしている者に対して,円満な占有状態の回復を求めることができます。
これを占有の訴え(占有訴権)といいます。
(占有の訴え) 第百九十七条 占有者は、次条から第二百二条までの規定に従い、占有の訴えを提起することができる。他人のために占有をする者も、同様とする。
占有訴権は「訴権」と名前がついていますが、実体法上の権利であり、物権的請求権の一種であることに注意が必要です。
占有訴権の制度趣旨
占有訴権の趣旨は「円満な占有状態の回復と侵害行為によって生じた損害の賠償」であり、占有の背後に存在している本権の保護を目的としたものではない(=本権とは無関係)。
(本権の訴えとの関係) 第二百二条 占有の訴えは本権の訴えを妨げず、また、本権の訴えは占有の訴えを妨げない。 2 占有の訴えについては、本権に関する理由に基づいて裁判をすることができない。
占有の訴えは,円満な占有状態の回復も占有の訴えを通じて実現すべきだとすることで,自力救済を禁止することもねらっている。
占有訴権の種類
占有訴権は、それぞれ相対する物件的請求権との対比で以下の3つに分けられる。
① 占有保全の訴え(妨害予防請求権)
(占有保全の訴え) 第百九十九条 占有者がその占有を妨害されるおそれがあるときは、占有保全の訴えにより、その妨害の予防又は損害賠償の担保を請求することができる。
② 占有保持の訴え(妨害排除請求権)
(占有保持の訴え) 第百九十八条 占有者がその占有を妨害されたときは、占有保持の訴えにより、その妨害の停止及び損害の賠償を請求することができる。
③ 占有回収の訴え(返還請求権)
(占有回収の訴え) 第二百条 占有者がその占有を奪われたときは、占有回収の訴えにより、その物の返還及び損害の賠償を請求することができる。
占有訴権を行使できるのは占有者。
占有の訴えを提起するには占有者であればよく、本権の有無は問わない。 他人のために占有する者(占有代理人)も自己の名前で占有訴権を行使できる。
占有者には直接占有者の他、間接占有者も含まれる。 例えば賃貸借契約に供されている建物の賃借人はもちろん、賃貸人もOK。
占有訴権の相手方となるのは?
(占有回収の訴え) 第二百条 占有者がその占有を奪われたときは、占有回収の訴えにより、その物の返還及び損害の賠償を請求することができる。 2 占有回収の訴えは、占有を侵奪した者の特定承継人に対して提起することができない。ただし、その承継人が侵奪の事実を知っていたときは、この限りでない。
占有訴権の相手方となるのは、もちろん現在占有を侵害している者となる。
ただし、民法200条第二項の定めにより、事情を知らずに占有を取得した善意の特定承継人(例えば盗品の買受人など)に対しては占有訴権を行使できない。
占有の訴えの提起期間
(占有の訴えの提起期間) 第二百一条 占有保持の訴えは、妨害の存する間又はその消滅した後一年以内に提起しなければならない。ただし、工事により占有物に損害を生じた場合において、その工事に着手した時から一年を経過し、又はその工事が完成したときは、これを提起することができない。 2 占有保全の訴えは、妨害の危険の存する間は、提起することができる。この場合において、工事により占有物に損害を生ずるおそれがあるときは、前項ただし書の規定を準用する。 3 占有回収の訴えは、占有を奪われた時から一年以内に提起しなければならない。
占有訴権は、占有侵害終了後1年以内に提起する必要がある。この期間は損害賠償請求にも適用される。